角田光代 『対岸の彼女』
初めて角田光代さんの小説を読みました。前々から気にはなっていたのですが,まずは直木賞受賞作の『対岸の彼女』から。
物語は,現在(小夜子と葵),過去(葵とナナコ)の二つが一章ごとに書かれていきます。
子どもが3歳になって,近所の公園に「公園デビュー」したけれど,なかなか周りのお母さん達にとけ込めず,「公園ジプシー」(そんな言葉があるんだ!)となっていた主人公の小夜子。その小夜子が,停滞した生活サイクルから抜け出すため,明るい女性起業家,葵が経営する会社で働き始める「現在」から物語は始まります。
しかし,自由奔放に見える葵も,「過去」には小夜子同様,中学時代にはいじめに遭い田舎の女子校に転校していたのです。田舎の女子校は,典型的な女の子どうしの付き合いばかり。つまり,本当に仲がよいわけではなく,友達の輪に入ること,そのグループに入っていることが大事な友達関係。
しかし,そんな女子校であっても,どこのグループにも入らず自由に生きるナナコという女の子がいた。仮に,他の連中に無視されても,いじめを受けてスカートを着られたとしても,「そんなのはちっとも怖くない。私の本当に大事なものは,そんなところにはない」,と言い切るナナコ。そんなナナコに惹かれていく葵。
この小説は本当に面白かった。
ただ面白いだけではなく,友人とは何なのか,本当に分かり合えることはあるのか,切なく,訴えかけます。
学生やOLになっても,食事やトイレに一緒に行き,どこかに出かければ必ず全員におみやげを渡し,何をするにもみんなで「どうする?」という女性グループは必ずあります。しかし,そこまでして「仲良く」しているはずのそれぞれは,決して親友ではなく,むしろ,そのグループに所属していなければならない,という強迫観念から一緒に行動していることがあるようです。
おいらは男なので,そういうことで悩むのは夜,飲み会に誘われることくらいですが(これはまた男特有の別の悩みですが…),社会に出てからも周りの女性を見ると,「大変だなぁ…」と思うことがよくあります。
江國香織が『泣く大人』の中で,男友達が好きだ,とした理由の一つに,男は10のことをして貰ったお礼には10を返せばよいこと(場合によっては10未満)を挙げています。女性どうしの場合,お礼にお礼を重ね,「無限お返し地獄」になることがあったりします。その点,男はお返しは一回。下手すると,お礼しない。でも,忘れていない。そんなさっぱりぶりが,うらやましいそうです。
閑話休題。
この小説では,そんな女性同士での,難しい交友関係から抜け出していった葵とナナコに一つの出来事が待っていました…。そして,「なんのためにあたし達はなんにも選ぶことができないのだろう」という思いに行き当たります。
「現在」の方では,葵の会社で始めた掃除サービス業がだんだん軌道に乗りかけてきて,小夜子にも過去を断ち切り,面倒な人間関係にも負けず,アクティブに生きていく勢いが出てきます。しかし,こちらも小さなことから,お互いの距離が離れてしまい,…。10代の頃と同じように友人関係で苦しむ小夜子は「なんのために私たちは歳を重ねるのだろう」と悩みます…。
とても生々しく,切ない小説ですが,最後には勇気がわいてくる。そんなエンディングも良く,一気に角田さんのファンになってしまいました。
しかし,面白かったなぁ。まぁ,男読者率は1%くらいと予想されますが,男が読んでも十分面白いです。葵とナナコのやりとりは,なんかちょっと恥ずかしいところもあるけど。
ここのところ,浅田次郎や村上春樹,横山秀夫といった男性作家を読む機会が多かったので,新鮮でした。また,おいらは,こういう「2本立て?構成」に弱く,これだけでもはまってしまいます。連続ドラマのように,イイところで話がもう一本の方に行くので,飽きないし,早く先を読みたくてどんどんすすんでしまいます。村上春樹の『海辺のカフカ』や『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』なんかもそうです(そして,もちろん好きな小説であります)。
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