『ブレイブ・ストーリー』以来,宮部みゆきのSF系作品を読みたくなり,『ICO -霧の城-』
や『クロスファイア 上・下』『鳩笛草―燔祭・朽ちてゆくまで』
を続けざまに読みました。そして,『ICO』はイマイチだったので,今日は『クロスファイア』について。
上下巻に分かれているのですが,上巻は単純に「スカッ」としてしまいました。
主人公の淳子はパイロキネシス(念力放火能力)を持ったOL。夜,廃工場に瀕死の男を運んできて埋め殺そうとする4人の若者。偶然,その場にいた淳子は「力」を解放し,そのうちの3人をあっという間に炎上・吹き飛ばします。
そして,逃がしてしまった1人を追うところから物語がスタートします。
上巻では,廃工場を起点とし,犯人を追いつめていく過程を描きます。その途中では,犯人に銃を売っていた者や,犯人の親や仲間などが出てくるのですが,すべて淳子のパイロキネシスで焼殺されます。「燃やす」と言うより「焼き払う」といった感じが近く,ここら辺の描写が,とても激しく爽快です。
じゃまをする人間は,かまわず焼き払う。きわめて短時間に,超高温で,炭化するまで・・・
淳子は,そんな能力(自由に火力を放射できる)をもって生まれてきた自分を「装填された銃」としてとらえ,「銃であるからには正しいことに使わなければならない」と考え,行動します。
だから上巻では,悪は,じゃまをした者は,問答無用で焼き払われます。たとえ,それが証拠不十分であったり,「未来のある」未成年であっても。
世の中では,この小説に出てくるよりも遙かに悪い連中がいます。それでも法治国家である以上,未成年であったり,証拠不十分であるのであれば,罰せられることはありません。
そこを,淳子は問答無用で焼き払います。やっていることは,明らかに殺人であり,私刑であるのですが,どうしても爽快感を感じでしまいます。
しかし,下巻に入り,正義の行使のためには犠牲はかまわないのか,私刑や自警は正しいことなのか,ということがテーマになっていきます。
ここから,冷静に事件を追い続ける刑事達や謎の組織「ガーディアン」などが登場し,上巻とは全く別の小説のように話が展開していきます。
上巻だけを読めば,超能力者が好き放題に正義を振りかざす,勧善懲悪,ハリウッド映画のようなストーリーです。しかし,批判を招きかねない,そういうストーリーにしておきながら,下巻では,法と裁き,正義のための犠牲などについて深く考えていくストーリー。宮部みゆきは本当にうまいなぁ,と思います。
そして,下巻の後半,淳子が長年背負ってきた能力から解放されていくさまは,あまりの切なさに涙が出ました。
たんなるSFではない,むしろ,非常に重いメッセージを込めた社会派ミステリーであると感じました。『宮部みゆき』月間で読んだ本ではナンバー1でした。