年末に読み始めた『サピエンス全史』。
斬新な視点で、我々人類(ホモ・サピエンス)250万年の歴史を概観します。
すべてが革命的に新しい人類史というわけではなく、あちこちで断片的に語られていた歴史感かもしれませんが、それらを250万年のホモサピエンスの歴史全体の形でまとめられているため、とても読みやすく、面白い歴史書で、一度読み始めたらやめられません。
あっという間に上下巻を読み終わりましたが、あまりに多くのメカラウロコがあったため覚えきれず、また読み返しています。
まだの人はぜひ~(^^)
ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』
本書全体としては、アフリカで生まれたちっぽけな、取るに足らない人類種の一つであったホモ・サピエンスが、どのようにして地球全体を事実上支配できるようになったのかを概観します。
多くの歴史書は、「王」や「国」が豊かになった・貧しくなった・大きくなったなどを主眼に書いていますが、本書は、各時代における個人の幸せはどうだったのか、人類種全体としてどうだったか、という「幸福度」についても力点を置いて書かれています。
現代を過剰に嘆くこともなく、また、過去を牧歌的で平和な世界と無条件に祭り上げることもなく、冷静に概観されていて、とても興味深く読むことができました。
まだまだ、自分のものとして整理しきれないですが、だいたい、こんなところが心に残りました。
認知革命
人類には大きな革命が3つ。認知革命、農業革命、科学革命。
「農業」「科学」はなんとなく一般的ですが、「認知」には驚かされました。
- サピエンスは他者と一緒に虚構を信じることができる
- 虚構とは幻想であり、神話、人権、平等、法律、会社、国家など、現代の私たちが信じているものをたくさん含む
- 虚構を信じることで、他人と協力することができ、巨大な力を手に入れることができた
なるほど、ひ弱なサピエンスがここまで巨大な力を手に入れられたのは、他者との協力を可能にする、認知革命の力なんですね。
「国」や「会社」などという、どこにも存在しない虚構を信じることで、無数の、場合によっては億単位のサピエンスが協力することができるというのは、サピエンスがここまで発展できた最大の革命であるとのこと、なるほどなぁ・・・。
農業革命
認知革命に続く農業革命によって、人類は新たな局面を迎えます。
- 同じ面積に莫大な人数が住めるようになるが、ここから階層・搾取が生まれ、ほとんどの人生を農業に捧げながら貧しい人生を送ることになる
- 小麦を栽培するのではなく、サピエンスは小麦の家畜になった
- 農業革命は史上最大の詐欺(支配階層、人類全体にとっては素晴らしい革命だが、大多数の農民は石器時代より貧しい)
科学革命
この辺まで来ると、私たちが学んできた人類史(産業革命など)と近い感じになります。
- 近代科学は無知を発見。無知を認めることによって科学が発展
- 地図の空白地帯を認めることで新たな冒険が始まる
- 科学技術は人間を楽にしない。漸進的な改善により人間を追い込んでいく。贅沢は必需品になり、新たな義務を乗じさせる
- 貨幣こそ、だれも知らない人と協力できる。アメリカと敵対する国ですらドルを信じている
経済の原動力は信用力。天然資源より信用力が大事
過去と現代
多くの人が現代は戦争と凶悪犯罪が渦巻く、とても危険な時代と認識されているかと思います。
が、例えば「暴力の人類史」(スティーブン・ピンカー)などでも述べられていますが、現代ほど、「ほとんどの人が他者に殺されない」平和な時代は、人類史上初です。
過去は日常的に殺戮が行われていて、成人男性の半分近くが他者によって殺されていたという記録もあります。
本書でもこの点について触れています。
- 私たちの祖先は自然と調和して暮らしていたと主張する環境保護運動家を信じてはならない
- サピエンスほど、他の動物種を絶滅させてきた生き物はいない。他の人物種まで絶滅させている
- 現代ほど平和な世の中はない。世界大戦や大虐殺をふまえても、人類全体では極めて平和な時期を過ごしている
- 戦争の代償が大きくなり、利益は難しくなってきた(採算が合わない)
- 富を生み出すものが地下資源等ではなくなり、現在の国家間戦争は、旧来の物質的な富に依存する地域で残存している
- 乳幼児死亡率は劇的に減少(産んだ子供の半数以上を失うことが普通だった)
サピエンス個人の幸福
下巻の後半部分、かなりのページを割いて、「幸福とはなんなのか?」について語られています。
- 生物学的には、脳内の快感物質(セロトニン)の分泌量
- セロトニンの分泌メカニズムは変化ない
- 現代の富豪と、中世の貧しい農民、セロトニンの分泌量は同じ(逆転しているかもしれない)
- 本当に2万年前のサピエンスより幸福になっているのか?
- 人生の意味、達成度合いを信じることができる幻想
まとめ
まとめられません(笑)
1回読んだだけではまとめきれず、2回目を(飛ばしながら)読んでいるところです。
幸い(?)、記憶力が非常に低いので、2回目の読書でも「おぉ、なるほど」と感心しながら読めています(お得だなぁ・・・)
多少、進化論的な知識が必要なところもありますが、だれが読んでも楽しめる歴史書だと思います。
おかげで、ほかの本が読めなくて積みあがっていくのが難点ですが・・・(^^)
(一応)おしまい。
おまけ(読み始め時のコメント)
今頃になっての『サピエンス全史』。
2016年に刊行されて世界的ヒットとなり、続編である『ホモ・デウス』が登場したところで、ようやく、読み始めです。
『サクリファイス』シリーズもそうですが、いつも、世の中の流れに疎いというか、取り掛かるのが遅いんですよねぇ。
で、感想の方は、今頃読み始めたのを後悔してしまうほど、面白い歴史書(?)です。
まだ上巻しか読めていませんが、それでも、メカラウロコの気づきがいくつもありました。
- サピエンスは共同で幻想・神話・虚構を信じることができる。宗教だけじゃなく、権利や法律や会社など、どこにも存在しないものを信じて共同して巨大なパワーを生み出せる
- 農業を始めたことにより、サピエンスは過酷な歴史を歩み始める
- サピエンスが小麦を栽培し始めたのではなく、小麦が人類を家畜化した。小麦農家は、その人生のほとんどすべてを小麦に捧げる
- 貨幣はサピエンスの寛容さの極み。これを軸に、全くの見知らぬ人たちが協力することができる
などなど、どれもこれも、今まで思ってきたこととは逆のことだったり、思いもよらなかったことばかりで、純粋に知的好奇心を刺激します。
中東のごく限られた土地で咲いていた小麦という植物は、特段、繁殖力が強いわけではないので、ちゃんと実らせてやるためには、サピエンスが土地を耕し、水を与え、草をむしり、害虫を駆除してやらないといけません。
その作業は朝から晩まで続き、小麦農家は、その人生のほとんどを小麦に捧げたおかげで、小麦はその生息域を世界中に広めることができ、「自身のDNAをどれだけ複製して残せたか」という、あらゆる生き物の成功の物差しで言えば、極めて大成功を収めた生き物になります。
サピエンスが小麦を栽培し始めたのではなく、サピエンス(小麦農家)は小麦の家畜になったのだ、と。
万事こんな調子で、「〇〇年に△△が起きた」という歴史書のイメージからは大きく離れ、サピエンスという人類の一種が登場したことによって、地球にどのような影響(悪いことが多いのですが・・・)を与えてきたのか、という大局的な歴史の流れを知ることができます。
織田信長でも豊臣秀吉でもなく、サピエンスが何をしてきたか。
なかなか面白くて読み返しながら、平成最後の冬休みを過ごしております。
気候変動とマイクロプラスチックは頭を使ってなんとかできると仮定して、過去には人口爆発に応じた食糧増産技術開発に成功したものの…
肉食を半分にしたら身体が弱り、自転車で走るためには肉食8割削減はできないことを体感した身から言うと、日曜Nスペの「地球の人口を養うだけのカロリーを現状でも生産している」というのはあくまで計算上の話で、現在の穀物生産を世界に均等に分配するだけではヒトの健康(=人類文明)を維持できず、また全人口に肉食を提供するよう穀物生産を20倍にするには水資源と土壌の枯渇から不可能で文明崩壊必達。
①完全な培養肉・代用肉が10年以内に人口に膾炙するか?
②肉食なしでもブルべで600km走り、コロナにかからぬ丈夫ナ身体ヲ持つよう50年以内に種が進化するか?
おそらく後者は人工的に人体を改変することになりホモ・サピエンスは我々世代を最後に消滅、別種の優位な人種を誕生させるという本書の予想が実現され、種を捨て文明を残す選択をすることになるのでしょう。
インドの氷河崩壊で済んでるうちにCO2が減るとも思えないので、せめて日々悔いのないのように自転車で走り、写真を撮りたい…