しばらく続いた,富士ヒルクライム特別営業も終了し,本日からフォトポタ日記は通常営業に戻ります(^^)
通常営業再開の第一回目の記事は,書籍紹介。
直接,自転車関係の本ではないのですが,どこかでつながっている,そんな気がする楽しい本の紹介です。
そもそも,エクストリーム・アイロニングってなに?
多くの人にとって,「エクストリーム・アイロニング」というスポーツ自体が初耳だと思います。
著者の松澤さんによると「山頂,断崖,海中など極限のアウトドア環境における高揚感と,アイロン掛けでシワが伸びる爽快感とをミックスさせ,さらに高い次元の達成感を得ることを喜びとするスポーツである」とのことです。
まぁ,簡単に言うと,アウトドアを基本として,普通では思いつかないような場所でアイロン掛けをする競技のことです。
例えばこんな感じです(エクストリーム・アイロニング創始者の,イギリスのPhil Shaw氏の動画)
エクストリーム・アイロニングにかける真摯な情熱がつづられた名著
上に示した動画を見ると,「あっ,こういうのなら見たことあるよ! お笑いのやつだよね!」「一発芸だよね!」みたいな感想を持つ人が多いのではないでしょうか。
実はおいらもそうでして,富士山頂や,とんでもなく険しい岸壁,カヌーやサーフィン(!),滝つぼ(!!),海底(!!!)などでアイロンがけをしている姿は,どうしてもコミカルで,ウケ狙いでやっているように思っていました。
もはや,何がなんだか。
しかし,著者の松澤さんは全く異なり,並々ならぬ真剣さを持って,この競技に限りなく熱い情熱を注いでいるのです。
松澤さんがアイロンに興味を持つようになったのは,オーストラリアにホームステイした際のホストファミリーが,家族全員アイロン掛けが好きだったことからのようです。
シワだらけのシャツが,目の前ですんなりと平らになっていく爽快感に目覚めたそうです。
実はおいらもアイロン好き(^^) シワは無くなるし,冬は温かくて気持ちい。
Nikon D90 + Nikkor 35mm F2D
そして,エクストリーム・アイロニングの始祖,イギリスのPhil Shaw氏のエクストリーム・アイロニングの様子をTVで見て衝撃を受け,自分でも試してみたところから始まります。
とりあえず筑波山頂にアイロンセットを担いで登り,シャツをアイロンがけしてみたところ,普通に山を登ったことによる達成感とは異次元の思いに捕らわれます。
山頂まで登ったという通常の達成感に加え,アイロンでシワを伸ばす爽快感や満足感がそこにミックスされ,普通の登山者たちよりも,さらに一つ上のステージでの達成感を得ることができるのだ。
(松澤等 『そこにシワがあるから』,p.20)
驚いたことに,富士山頂まで非常用電源(25kgだそうです・・・)を含めたアイロンセットを持ち込み,苦労の末にアイロニングを成功したこともあり,その時の様子はこう語られています。
ちょうど朝日とともに剣が峰に到着すると,すぐに発電機でアイロンを暖め,静かにアイロニングを始めた。
山頂から広がる雄大な景色を見ながら,僕はゆっくりとひとつひとつシャツのシワを伸ばしていった。蒸気が上がり,そこから漂う洗濯石鹸のほのかな香りに,僕は一瞬自分が家のベランダでアイロン掛けをしているような錯覚に陥ったが,周りは見渡す限りの雲海であった。
現実に戻ると,僕は全身に鳥肌が立つのを感じた。これぞ,日本最高峰で得る,究極の達成感と癒しなのだ。
それはすさまじい感覚だった。同時に,今までやってきたさまざまなアイロニングの思い出が蘇り,それが激しく胸を突いた。
そして,アイロニング後にやってくる究極の脱力感もまた,いつもの数倍すごかったように思う。後はもう,ただただ泣けた。
(松澤等 『そこにシワがあるから』,p.135-136)
エクストリーム・アイロニングを極めていくと,様々な困難にぶつかっても動じない,「鉄の平常心」を身に着けることができるということで,精神修業的な側面もありそうです。
という松澤さんなので,YouTubeなどに溢れている「こんな変なところでアイロンやってみました♪」というだけの行為には強い不信感を持たれているようです。
その人たちは,ちゃんとアイロンができているのか,達成感を得られているのか,鉄の平常心があるのか。
もっと,自分を律し,厳しい自然と闘い,その末に,丁寧なアイロン掛けをちゃんと達成できてこそのエクストリーム・アイロニングということです。
全編にわたって,とにかく,この冗談のように見えるエクストリーム・アイロニングという,新たなスポーツに対する狂おしいほどの真摯さが伝わってきます。
松澤さんは,その人生経験の豊富さからなのか,とにかく文章がうまく,並の小説よりも胸に強く届きます。
人はまた僕にこう問うであろう。どうしてそんな高い山に登るのかと。
それに僕はこう答える。「なぜなら,そこが楽しそうだから」と。
そして僕のアイロンセットを見て,人はさらにこう僕に問うだろう。なぜそうまでしてアイロンを掛けたいのかと。
そこで,僕は胸をはってこう答えるのだ。「なぜなら,そこにシワがあるから」と。
(松澤等 『そこにシワがあるから』,p.208)
格好良すぎます,松澤さん。おいらも言ってみたいものです。
なぜ苦労して自転車で山なんか上るのか。
そこにヤビツがあるからさ。
他のスポーツだってさ・・・(^^)
「山に登ってアイロンをかける」というと,普通の人は「何それ,バカみたい」と思うかもしれません。
実際に,松澤さん達(競技団体ができている!)も,周囲の人から蔑まれたり,心無い言葉を投げかけられることも少ないとのことです。
しかし,これはおいらの私見ですが,例えば,以下のようなスポーツはどうでしょう?
- 小さなボールを,何百メートルも先の小さな穴に,棒で叩いて入れるスポーツ
- 鎖の先に付けた鉄球を,ぶんぶん振り回して遠くに放り投げるスポーツ
- 大勢の選手が,ボールを足で蹴って運び,網の中に入れた回数を競うスポーツ
- 大勢でプールに入り,泳がないで,その場で潜ったり輪になったり,人を投げたりして,その美しさを競うスポーツ
- 下りの方が圧倒的に楽なのに,あえて重力に逆らって自転車で山を登るスポーツ
ね? おいらたちが普段見ているスポーツだって,知らない星の人にしたら相当にバカに見えると思います。
まぁ,5番目は地球の人が見てもバカかもしれませんけど(笑)
日本では自転車もかなりマイナーなスポーツですが,エクストリーム・アイロニングは,マイナー以前に,まだ開発途中なんです。
おぉ,こんなすごいプレイまで!(さいたま競輪)
何年か後,松澤さんが「始めたばかりのころは,笑う人さえいたんだよ」という風に言いながら,世界大会で活躍されていることをお祈りします。
(過去には世界大会はあったのですが,現在は中断しているようです)
まだまだ不思議な目で見られることが多い自転車という趣味をやる人間として,心ひそかに応援しています(^^)
私は5番目が苦手(っていうか、1~4番目までもやった事ありませんが…)ですが、漕がなくても進む下りの気持ち良さを体験するために仕方なく登ったりする事はありますが…
ところで私の県では先日たて続けに4件のクマによる死亡事故がありましたが、だいぶ前に購入して読んだのがヤマケイ文庫の「山でクマに会う方法(米田一彦:著)」です
最近はご無沙汰してますが渓流釣りも好きなので、沢でクマに出会わないようにするためにクマの習性などを覚えるべく読みました
ちなみに、自転車のマイコースにも数か所に「熊出没注意」の看板がありますが…
自転車のヘルメットもフルフェイスにした方がいいかなぁ?(なんて)
自転車での山登りを愛する皆様もクマにご注意を!