自転車走行記録と同様,先月(2012年12月)分を飛ばしてしまったので,2ヶ月まとめて紹介。
昨年末の『ハッピーリタイアメント』から始まった,おいらの第2次浅田次郎ブーム。
2ヶ月たった今も,その勢いはまったく止まっていません(笑)
この2ヶ月で読んだのは,雑誌等を除けば以下の4作6冊で,いずれも浅田次郎チョ,いや,著です(どうなってんだ,MS-IME!!)。
著者 | プチ感想 |
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『日輪の遺産』 浅田次郎 |
不動産経営に行き詰まり,自殺まで考えた男のもとに,時価200兆円もの財宝話がもたらされるところから物語が始まります。その財宝は,終戦直前の混乱状態の中,多くの人たちが命をかけて,祖国の未来のために遺したものでした。
物語は,現在と過去(昭和25年)の二つの時間軸で展開され,現在の緩さと対照的に,過去の方の舞台は終戦を迎える緊張感,悲壮感がひしひしと伝わる中,本当にラストのラスト数ページでクライマックスを迎えます。 当時の人々が何を想い,何を未来に遺そうとしていたのか。現代の豊かな時代に生き,「戦争はダメ」程度の表層的な理解しか持たない自分達には想像をはるかに超えた切なさを感じると同時に,強い尊敬の念をいたかざるを得ません。必ずしも実話ではないのですが,そんなことは関係なく,ラストは涙なくして読み進めることはできませんでした。 本書の後,『シェラザード』『終わらざる夏』と3冊続けて先の大戦関連の小説を読みましたが,結果として,最初に読んだ本書が一番感動しました。 |
終戦間際,2兆円の財宝を積んだ豪華客船「弥勒丸」が米潜水艦によって撃沈された。米英捕虜への人道的配慮からの物資運搬船のはずの船に,なぜ,そんな巨額の財宝が。そして,絶対に攻撃されるはずのない「安導権」を持った弥勒丸がなぜ狙われたのか。闇金融の社長と部下の二人に,宋英明と名乗る謎の中国人から,弥勒丸の引き上げ話を持ちかけられ,他の関係者2名が殺されるところから物語が始まります。
『日輪の遺産』と小説と同じ過去・現在の2段構造で,また,題材も近いのですが,『日輪・・・』が当時の日本人が未来へ託す希望(とその切なさ)を描いているのに対し,本書は弥勒丸の悲劇自体に焦点があてられています。なぜ,こんなにもたくさんの無実の,そして僅かな希望を持った人たちが死ななければならなかったのか,切ない物語でした。 ただ,主人公は現在の側の闇金融社長とモトカノだと思うのですが,これが原因で,残念ながら物語が少し薄くなっていると思われます(「日輪の・・・」の2倍ほど厚いのですが)。ネタバレになってしまうので書かないですが,宋英明が背負ってきた十字架,戦後の過酷な人生にスポットライトを当てたほうが,もっともっと深い小説になったのではないかと思い,少し残念でした。 |
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これも終戦直前~直後を描いた小説ですが,現代・過去の同時進行ではなく,普通に過去の時間軸だけで書かれています(全般的に,浅田次郎はこの書き方の方がいいような気がします)。
自分達が学校で習うのは,「終戦間際にソ連が参戦し,日本も応戦したけど北方領土を取られた」くらいの知識しかありません。しかし,実際に戦ったのは,「数」としての兵士ではなく,親や家族といった,愛し愛される人がいて,日々の苦労もあるけど将来への希望を持った,普通の人たちでした。 『終わらざる夏』は,「終戦を迎えたのにソ連と戦うことになった悲劇」をテーマとして描いていますが,作者の主眼はそこではないと思います。もっと,戦争というものの本質的な悲惨さや,その中でも失われなかった日本人の優しさや矜持を伝えたかったのだと思います。 仮に,舞台を1年前の東南アジア各地の守備隊玉砕にずらしたとしても十分成り立つ,そういう,テーマの面白さだけではない,深い小説だと思いました。 ただ,あまりに登場人物が多くて,話が広がりすぎている感があり,半分くらいの舞台に設定したほうが,より感情移入しやすくなったのではないかな,と思います。また,帯や宣伝で,終戦なのにソ連と戦った,というところばかり強調されてしまっているので,そこの史実を期待して読むと失敗するかもしれません。 |
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『歩兵の本領』 浅田次郎 |
戦争・終戦を舞台にした3作を読み終わった後に,現代の自衛隊をテーマにした本書を読みました。こちらは,前3作とは違って,著者自身の自衛隊体験(2年在籍したそうです)をもとにした,楽しくもホロリと泣けるエンターテイメント小説(帯に書いてあった「青春グラフィティ」は言い得て妙です)。
自衛隊という,世間から隔絶された世界には,それぞれ何らかの事情を抱えた男達が暮らしていて,その一癖もふた癖もある男達のやり取りが面白い。全10編ほどの短編集なのですが,前半は,ことあるたび殴ったり,殴られたりばかりで,「やっぱり自衛隊も軍隊なんだなぁ」という感じでしたが,後半,いくつもホロリとさせる話が登場してきます。言葉は雑で,行動は殴る蹴るのおっさん達なのですが,とてつもない優しさを抱えていることに,我ら普通のサラリーマンにはない熱さを感じてしまいます。 どの短編も気軽に読める分量ですから,気分が落ち込んでいるときなど,意外といいかもしれません。特に男には(^^) |
日輪の遺産,シェラザード,終わらざる夏
終戦前後を舞台にした3作。
今まで,浅田次郎の著作はいろいろ読んできました(おいらの第1次浅田次郎ブーム)が,戦争を舞台にしたこの3作にはなぜか手をつけていませんでした。
それが,年末のブックオフで,ふと手に取った『日輪の遺産』からすっかりはまってしまいました。
3作とも,第2次世界大戦における日本終戦の前後を舞台にしています。
もともと,近代史はきらいではなくて,ドキュメンタリーものなどは読んでいたのですが,物語としての戦争を小説で読んだことはあまりありませんでした。(以前は,よく朝ドラで見てましたが・・・)。
いずれも,戦争の舞台である戦場ではなく,市井の人々,いわゆる「銃後」が舞台になっています。
絶望的な状況下で未来の祖国に託す思い(日輪の遺産),僅かな希望を持っていた人たちを裏切ることになった無念さと悔悟の念(シェラザード),過酷な統制下で父や息子を永遠に失う辛さと望郷の念(終わらざる夏)・・・。
いずれも,必ずしも史実とは100%合致はしない点もあると思いますが,それでも,当時の人たちの思いにほんの少しでも心を寄せるきっかけになります。
『日輪の遺産』ラストの女学生達のシーンは,ここ数年間で読んだ小説で最も泣ける1場面でした・・・。
学校では「とにかく戦争はダメ」「当時の日本は戦争一色」のように,ある意味,当時の人々を上から目線で批判するような教えを受けた気もするのですが,それぞれの日本人がどのような思いを抱いていたのか,戦後,180度変わって個人主義一辺倒になった今の子どもたちにも読んでもらいたいなぁ,と思う小説たちでした。
おしまい。