【長文】オートマチック・ブラック・ボックス

「ぼかす」と言われても,中で何をやっているやら・・・?

「ぼかす」と言われても,中で何をやっているやら・・・?

Nikon D600 + Nikkor Micro 60mm F2.8

オートマチック・ブラック・ボックス

「全自動暗闇箱」。

日本語に訳してもさっぱり意味が分からないと思いますが,おいらが勝手に作った用語です(特許非出願中)。

最近,パソコンやカメラ,車でもバイクでも,いろんな機械・装置が昔に比べて「初心者に優しくないなぁ」とか「どこから説明してあげたらいいんだろう?」と思うなことが多くなりました。

機能が増えたから,というのもひとつの理由とは思うのですが,もっと深いところでは「機械が何やっているのか分からん」というのが大元にありそうな気がします。



何でも自動化カメラ

以前,職場の女の子がカメラ(おいらと同じSONY NEX5)を買ったのですが,「同じカメラなのにShiroさんみたいになんないよ~!」と泣きついてきました(いや,怒ってきたかも)。

しょうがないのでカメラを見せてもらったのですが,予想通り,あらゆる「オート機能」がオンになっていて,シャッターボタンを押すだけ撮れるようになっていました。

なにがどうなって,どう「きれいな写真」が撮れるのかさっぱりわからんです。

なにがどうなって,どう「きれいな写真」が撮れるのかさっぱりわからんです。

Nikon D600 + Nikkor Micro 60mm F2.8

オートフォーカス,オート露出,オートホワイトバランスくらいまでなら分かります。でも,もっと人間寄りの(=本来人間が決めるべき)要素まで,カメラが勝手に決めています。

  • フォーカスポイント(どこにピントを合わせたらいいのか)
  • 背景をボカすべきか,シャープに写すべきか(被写界深度)
  • 少し暗いと,とりあえずフラッシュ発光
  • オートフレーミング(勝手にトリミングしてしまう!驚!)

などなど。

フォーカスは一番手前の大きな物体に合焦,ホワイトバランスは肉眼どおり,シャッター速度はブレが怖いので高速側,露出は18%グレーになるように制御され,すべての機能が上手く働くと,つまり極めて「無難な写真」ができ上がります。

ブレブレや真っ黒けの失敗写真ではないのだけど,ケータイやコンデジで撮ったのと変わらない写真が,レンズ込みで10万円近いカメラに記録されていきます。

ISO=25600の超高感度まで対応できるAPSサイズの大型撮像素子を備え,絞りもシャッター速度も自由に調節でき,コントラストAFで画面上のどこにでもフォーカスできるカメラなのに,すべてを機能を自動制御した結果,システム全体としてはケータイカメラと同じになってしまう。

なんでしょう,この矛盾,というか宝の持ち腐れブリは・・・?

D90とNEX5。基本的にほぼ同性能が出せます。NEX5,すごい奴です。

D90とNEX5。基本的にほぼ同性能が出せます。NEX5,すごい奴です。

Nikon D70 + Nikkor 35mm F2D

なんでも自動化の罠(?)?

【その1】人間の意図を横取りされる!

一部のマニア(自分もか?)のように,あらゆる自動制御をやめて手動でやるべし!というほど原理主義ではありません。

何だかんだ言って,オートフォーカスは便利だし,いまどき,外の明るさから露出を自分で決められる人は少数派でしょう(「晴れの日はf16で感度分の1秒」なんて言っていたのは,いつの時代だっけ・・・)

でも,全部自動化してしまうと,前述の女子カメラのように,失敗はないけど成功からはほど遠い写真しか撮れません。

結局,「全部自動化」と「全部手動」の間のどこかに,「ちょうどいい自動化」のポイントがあるのだと思います。

その境目は,

  • 機械の性能を向上させる自動化
  • 「人間の意図を勝手に汲み取る自動化」

にあるのではないかと思います。

同じNEXでも,露出補正の画面は直感的で分かりやすい感じ。

同じNEXでも,露出補正の画面は直感的で分かりやすい感じ。

Nikon D600 + Nikkor Micro 60mm F2.8

狙った被写体に自動でピントを合わせてくれるAFは近視や老眼の人も含めて,カメラの性能を大幅に向上させてくれますし,ごく一部のプロしか撮れなかった被写体(スポーツ,乗り物等)まで撮影領域を広めてくれました。

しかし,どの被写体を狙ったらいいかまでカメラに決めてもらうのは,やり過ぎ。「人間の意図を汲み取る」と言うと聞こえがいいですが,実際には「横取りする」と言った方が正しいかもしれません。そこは,どんなにカメラが進化しても人間の仕事だと思うのです。

もし,オートマや電動アシストのロードバイクなんかを作っても,たぶんあまり売れないと思うのですが,なぜか,カメラやパソコンはそうなっていこうとしている気がしてなりません。

【その2】具体的な機械の動きを隠しちゃう

NEXシリーズでは,背景を「ぼかす」「くっきり」などをグラフィカルなインターフェースで指示できます。

しかし,初心者は,その指示によってカメラがどういう動きをするのかが分かりません。

確かに,目的は「ぼかす」なのですが,それだけじゃぁ,ボケてくれないです。

確かに,目的は「ぼかす」なのですが,それだけじゃぁ,ボケてくれないです。

Nikon D600 + Nikkor Micro 60mm F2.8

実際に「ぼかす」の指示を受けたときには,ISO感度を下げて,絞りを開放しているのだと思います。場合によっては,画像処理のシャープネスも下げているかもしれません。

こういう動きを知らないから,

  • F値の暗いレンズを使っている
  • 強い日差しの中での撮影
  • 被写体までの距離が遠い
  • 被写体と背景の距離が近い
  • 広角レンズを使っている

などといった背景がボケにくいシーンで,うまくボケてくれないことが理解できず,「このカメラはダメだ!」ということになります。

小物撮影は至近距離なので,広角でもボケます。逆にシャープに撮るのが難しい(おいらは苦手・・・)

小物撮影は至近距離なので,広角でもボケます。逆にシャープに撮るのが難しい(おいらは苦手・・・)

Nikon D90 + Nikkor 35mm F2D

カメラに限らず,機械を使いこなしている人は,レベルの差こそあれども「今,機械がどういう動きをしているか」をだいたいは知っています。

クルマでも自転車でも,トルクの小さなエンジンを効率よく回すために変速機があり,本来は人間が切り替えるところを,機械が替わって制御してくれている。これだけでも,知っていると知らないとでは大違いです。

たとえば,ロードバイクの変速装置で「山」「平地」みたいな表示しかなかったらどうでしょう(ママチャリは,既にこうなっています)。

実際には,山でもギアを重くしてダンシングすることもあるし,平地でギアを軽くしてケイデンスを上げることだってあります。変速テクニックだけで雑誌の特集になるくらい奥が深いのですから(^^)

多くのママチャリライダーは,ギア比なんて考えたことが無いと思いますが,この楽しさを奪われたら,ロードバイクの楽しみ(とシマノの収益,笑)は大きく減ってしまうと思います。

機械の動きを知り,「制御する楽しみ」を取り戻そう!

毎年のことですが,首都圏で雪が降った翌日には,既に滑り始めているのに全力でタイヤを空転させている車や,明らかにFFなのにリアにチェーンを巻こうとしている車など,ほんの少しでも機械の仕組みを知っていれば,と思う光景を良く見かけます。

パソコンだって,昔はBASICでプロラムして,いずれアセンブリやC言語でやってみる。他人の作ったフリーウェアに感動し,会社に入ってから市販のアプリケーションを使い出す。

こういう「出世魚」みたいな使い方をしていたから,メモリやHDD,OSの仕組みが分かったものです。

現在の,あらゆる機械が大型化,複雑化,進化していく中,途中から始める人は本当に大変だと思います。

前述のカメラ女子には,オート機能をオフにするところから始めることにしました。最初のうち,使っていいのはAF,絞り優先AE,AWBの3つだけです。ここから始めないと,いつまでたっても,カメラに撮らされているだけで,自分の意図,制御はいつまでたってもカメラから取り返すことができません。

幸か不幸か,我らが愛するロードバイクは,今のところほとんどがワイヤで制御され,外から見ても何が起こっているのかが良く分かります。

本当,良くできてるなぁ,と感心します。

本当,良くできてるなぁ,と感心します。

Nikon D90 + TAMRON 17-50mm F2.8

スラントしたパンタグラフのおかげでスプロケを舐めるように近づいて動くRD,センター位置がずれないデュアルピボットブレーキなどの動きを見ると,惚れ惚れしてしまいます。

願わくば,これからもこの程度のシンプルさで留まってもらい,過度な自動化や電動化が進まないことを祈っています(Di2が買えない負け惜しみ?笑)

遠い将来,「ギアに書いてある『12T』とか『23T』て,なんすかね?」などと言うプロが現れないように(^^)

(おまけ)
以前,夕方のニュース番組で「かつお一本釣りロボット」の試作機が紹介されていました。

一本釣り漁船に猟師さんと同乗した試験運転では,漁師さんが見ている目の前で見事に何匹か釣り上げていました。

そのときの漁師さんのインタビュー。

「いやぁ,この仕事はきついですから,助かりますわ~♪」

ひぇ~,もっと危機感を持たないと!あなたの仕事ですよ~!!

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コメント

  1. 名前:Shiro 投稿日:2013/10/14(月) 22:59:48 ID:08289ebfd 返信

    >AG-SYSTEMさん

    そうなんですよね,
    実用品で省力化するための自動化ってのは本当に便利です。

    クルマのABSや横滑り防止なんてのも素晴らしいですね。
    昔の人からしたら,パワステやブレーキのブースターですら素晴らしいと思います。

    おいらは仕事上,航空機の制御について割りとハマっていた時期があるのですが,
    クルマの自動化と同じで,パワーコントロールや,
    あて舵など,飛行機を安定して能力向上のための自動化は大成功でした。

    が,その後の,航法自体を自動化する段階になって,
    無数の事故を起こし,無数の人々が亡くなりました。

    キーボードで目的地を入力するのですが,
    タイプミスしたためにコースが変わってしまい,目の前に山が迫る。
    驚いたことに,パイロット達は,
    衝突直前まで,ひたすらキータイプで山を避けようとしていました。

    操縦かんを引くだけで,避けられたのに,多数の人が亡くなりました。

    AG-SYSTEMさんがおっしゃる,最近流行の衝突防止機能(今日もニュースでやってました)。
    これは,本気でやり始めると,
    航空機の場合と同じことを起こしそうで,おいらもこわいです。

    ナビで設定すれば目的地に自動で着く車なんて,
    運転手は自業自得けど,それに轢かれる側としてはたまらんです(^^;)

    かつおつりロボットの件は,
    そのロボットが本格的に導入され始めると,
    インタビューに応じていた猟師のおじさんが首になるかな~と思って(^^)

    そのロボットが,「完全自動化」じゃなくて,
    やっぱりおじさんが,リモコンで操縦するならいいんですけど,ちょっと心配。
    釣竿が重いので,腕力倍増装置とか(^^)

  2. 名前:Shiro 投稿日:2013/10/14(月) 22:50:06 ID:08289ebfd 返信

    >Noguさん

    こんばんは~
    城ヶ島100km,箱根170kmお疲れさまでした~(^^)

    ホワイトバランスは原理的には「え?こんなん?」というものなんですが,
    どんどん進化してきて,今ではほぼ正解を出すようになりました。

    フィルムカメラなんて,普通は「デーライト」というお日様用フィルムを使うから,
    室内で蛍光灯下で撮ると,間違いなく緑の宇宙人になったもんでした。

    ただ,あまりにも上手に光源の色を補正してしまうので,
    人間の記憶に残る色より,「あっさり」したものになり勝ちです。

    思い通りに行かないときは,
    マニュアルモードでホワイトバランスを設定しちゃうのも手ですよん。
    おいらは,基本的にいつでも「太陽光」です。

    IXY(のDIGICエンジン)は昔~から,
    人間の記憶に残る色,記憶色の再現に腐心してきたから,
    うまく使うと,コンデジでもびっくりすくらい,
    きれいな写真を描いてくれます。

    Nikonは,忠実さ命なので,ちょっと地味なのが難点・・・(^^;)

  3. 名前:AG-SYSTEM 投稿日:2013/10/14(月) 16:28:33 ID:f0a445b47 返信

    こんにちは

    非常に共感出来る記事でした。
    確かに自動化は良いものです。
    例えば冷蔵庫がマニュアルで温度を調節しないといけなかったり、電子レンジに「温めスタート」のボタンが無かったり、洗濯機で洗いや濯ぎの回数脱水の時間を毎回手動で入力しなきゃいけなかったりしたら不便極まりないですよね。

    ただしそれは生活家電の中での話だと思います。
    カメラのように趣味性の高いものは自動化し過ぎると、とたんにつまらなくなりますもん。
    まぁ、自動化されることで敷居が下がり、新規層を取り込みやすくなるメリットは確実にあると思いますが。

    車などの、一歩取り扱いを誤れば重大な事故に繋がる物もそうです。
    ABSや横滑り防止機能は別に抵抗を感じません。4つの車輪に独立してブレーキをかけるなんて芸当は人間にはどう足掻いても出来ないですし、普通に運転してる分にはシステムの介入を受けないですからね。
    しかし、近年流行りのアイサイトを代表する衝突防止機能はいただけませんな。
    ドライバーの操作に機械がバリバリ介入してきますし、そもそもそんな物を付けないと安心出来ないような人は車に乗ってほしくないですしw

    カツオ釣りロボットの番組は私も昔見た記憶がありますが、アレに関しては良いんじゃないかな、と。
    漁師にとっては、人が釣ろうが機械が釣ろうがカツオ1尾あたりの値段が変わらなければ同じ事なので、単純に労力を軽減できる様になります。もう少し進んだ話ですと、全自動運転のトラクターなんかが開発中です。畑の現場では2台のトラクターが別々の作業機を牽引して同時に作業する光景がよく見られますが、個人経営で跡継ぎが居ない等人手が足りない場合は、一人で畑を2往復する必要が出てきます。全自動運転のトラクターがあれば、その手間を半減できる訳です。

    こういう、単純に人の労力を削減するための自動化なら私は大歓迎です。

  4. 名前:Nogu 投稿日:2013/10/14(月) 15:42:00 ID:52555e415 返信

    この記事読んで『ハッ』としました。
    デジカメはコンデジしか持ってないけど確かに携帯見たいな記録にしか使ってなかった。
    入門機のIXY 110SなんていっつもAUTOモード。
    プログラムAEに切り替えると少しだけど設定がマニュアルでできるんですね。
    ホワイトバランスなんていじったことなかったけどプログラムされた晴天、曇天、室内なんかでも画質は結構変わるもんですな。
    この機種にホワイトバランスのマニュアル設定があるもの初めて知りました。
    カラー設定もモノクロ、セピアだけでなく、くっきり、ノーマル、OFFがあってそれぞれ変わるもんですね。
    一昨日三浦に行った時にプログラムAEモードで撮影したらいままで白っぽくなってた画像がきれいな発色するようになりました。
    目から鱗。
    いやいや、記事アップ用の画像もこんな設定でちょっと変わるもんだと感動しましたよ。
    為になるフォトポタ日記です。

  5. 名前:Shiro 投稿日:2013/10/10(木) 19:40:21 ID:4016d000c 返信

    >rikiさん

    はじめまして。
    コメントありがとうございます!

    今回は,なんだか偏屈オヤジみたいな記事で
    申し訳ないのですが,最近,良く思うことなんですよね。

    機械の動きを知りたいのに,
    教えてくれない,見せてくれない状態になってきている気がします。

    コントロールする,制御することが
    楽しみの一つだと思うんですよね。

    rikiさんのおっしゃるように,
    機械にしても,人間にしても,
    相手のことを良く知ることで,付き合いが深まったり,
    より楽しい間柄になったりしますもんね。

    全自動のロードバイクとはあんまり楽しい間柄にならない気がします(^^)

  6. 名前:riki 投稿日:2013/10/10(木) 14:50:02 ID:6d94f3d57 返信

    こんにちは!
    いつも拝見しています。
    今回の記事は特におもしろかったです。
    「機械の動きを知り,「制御する楽しみ」を取り戻そう!」との呼びかけがいいですね。

    相手のことを知ることで,その相手とのつきあいがより深まり,より楽しくなる,そんなことを思います。

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