1冊の本を,5年もかけて,ようやく読み切ることができました。
2001年に直木賞を受賞した,重松清の『ビタミンF』。僕が買った,初めての重松おじさんの本です。
しかし,当時,僕はまだ30を過ぎたばかりでチビ達は2才(ユウキチ)と0才(カズボン)。『ビタミンF』を読むには,ほんの少しだけ若すぎました。
『ビタミンF』には,以下の7つの短編が収められています。
- ゲンコツ
- はずれくじ
- パンドラ
- セッちゃん
- なぎさホテルにて
- かさぶたまぶた
- 母帰る
子どものいじめ,田舎で一人暮らしをする親,夫婦の離婚,簡単には答えがない,そして,たぶん完璧な正解もない問題を抱えた父親(Father)や家族(Family)を描きます。
そして,どの短編も,「父親と子ども」「夫と妻」というように,家族を持つ中年おじさんが主人公です。そして,このうちの何編かのおじさんは,今の僕と同い年(特に秘す)。
5年前に買った時には,チビ達は無限にカワイイ2&0歳児。ようやく3年目の結婚生活に入ろうとしていた僕には,まだピンとこないテーマばかりであり,また,あまり考えたくない近未来の現実でもありました。
7つの短編は,どれも難しい課題を抱えています。
中でも一番切なかったのは,『セッちゃん』。帰りの電車ではなく,珍しく出社時に読んで胸が詰まってしまい,激しく業務妨害されていまいました(TT)
中学生の娘は優等生で明るく,何でも話す,父親から見て理想に近い娘。しかし,最近になって,娘の口から同級生の「セッちゃん」という子がクラスでいじめられている話を聞くようになる。娘は「セッちゃん」に対して,最初のうちは同情しているが,徐々に厳しいことを言うようになる。嫌われてもしょうがない,誰かを嫌いになるのは自由だ。
でも,娘が話す「セッちゃん」は実在しないことを知ってしまった父親は・・・。
あまりに切ない話でした。嫌なことがあったり,思い通りにいかないと,ワンワン泣いて大騒ぎするカズボンを見ると,「こうやって素直に自己表現できる時期は本当に幸せで,だけど,あっという間に終わってしまうんだな・・・」と思う。
でも,どの話にも,先行きにはとても大きな困難は待ち受けてはいるけれども,それでも立ち向かっていこうとする父親と家族が描かれています。
ぼろぼろだったり,困難だらけだったり,ちっとも幸せじゃない人生だって,父親(もちろん母親も)や家族で立ち向かうことができる。決して,一発で解決できる即効性のある抗生剤ではないけど,ゆっくりとじわじわ効くビタミン。最後まで読んで,ようやく,タイトルの意味が分かってきました。
あとがきでは,僕が見つけたキーワード,Family,Fatherの他に,Friend,Fight,Fragile,Fortuneが重松オジサンがこの小説に隠したキーワードであることが明かされています。Fragile(危うい,もろい,儚い)は意外だったけど,確かにそうかもなぁ・・・。
どのお話(Fiction)も,最後の1ページで急に好展開になるところに,若干の無理を感じないでもないですが,そんなことには関係なく,間違いなく,37才(あ,いけね)の僕の体にはゆっくりとビタミン効果が広がっていきそうです。
(追伸1)
「セッちゃん」の他には,最後の「母帰る」が無性に良かった。こんなの,20代で読んだって絶対に分からない。中年オヤジ,万歳!