重松清の小説でどれが一番好きか? と聞かれると,同じ質問の村上春樹バージョンと同様に困り果ててしまう。
どれもこれも好きな作品ばかりで困るのだけど,トップ3を選べと言われれば,『きよしこ』は文句なく選んでしまう。
それくらい,おいらの中では大好きな,キヨシ少年の物語です。
吃音に悩む少年の成長を描いた小説。
簡単に言えば,それだけです。
でも,こういう小説にありがちな,「どんな苦境にもめげず,困難に立ち向かい,ついには困難を克服する感動的なお話」を期待すると,肩すかしを食います。
言いたいことを思い通りに伝える。そんな簡単なことができず,たくさんの言葉を胸にしまわなければならない悔しさ。吃音の矯正教室で,学校で,家で,様々な場面で言葉をのみこんでガマンしてきたキヨシ。
でも,小さい頃の夢の中で見た「きよしこ」とだけは自由に話すことができる。もちろん,「きよしこ」は夢の中にしかいないのだけど,「ほんとうに伝えたいことだったら,伝わるよ」という彼の言葉に励まされつつ,キヨシはゆっくり(小学生~大学受験)と成長していきます。
読み終わってみると,とにかくキヨシのかっこよさ,成長ぶり,芯の強さに感動します。7話の短編からなっているのですが,ちっともかっこいい話は出てこない。でも,それでも,キヨシの「凛とした立ち向かい方」に心をふるわされます。
困難を克服したわけではなく,これからのキヨシには様々な困難があるはずです。でも,それを乗り越えようとする生き方を身につけたキヨシは真っ直ぐに立ち向かっていくことでしょう。たとえ失敗したり,恥ずかしい思いをしたとしても。
このエントリーの出だしで「言いたいことを・・・,そんな簡単なことが・・・」と書きましたが,よく考えてみれば,全く逆かもしれません。
言いたいこと,思っていることを他人に伝えるのはもっとも難しいことなのかもしれません。口先だけはなめらかにしゃべれたとしても。
僕らは,数少ない人と家族を作り,友人を作り,日々を過ごしていますが,伝えたいことを100パーセント伝えることも,すべてを分かり合うことも永遠に不可能だと思います。
でも,伝えようとする努力,分かろうとする優しさは決して無駄ではなく,むしろ,だからこそ繋がりあっていけるのかもしれません。
だって,「あなたのこと,全部分かっています」って言われたら,逃げたくなっちゃう。少しでも,伝えていけるように,分かっていけるように,努力していく。そんな力強いメッセージを,そして勇気を与えてくれる小説です。
(やっぱり,重松オジサン,すごいなぁ・・・)
〔追伸〕
我が家のチビ達と話してて,チビが「四角くて,すかすかで,なんかじゅわーっておいしい汁が出てくるヤツって,ボク好きなんだよ」とか「んあ゛~,あの,あの,あの,宇宙に浮かんでいる丸い黄色いヤツってさぁ,まぶしくて・・」と一所懸命,小さい小さい頭の辞書から言葉を繰り出してくるのを聞くのはとても楽しく,いとおしい。年々,ボキャブラリーが増えていくのが寂しい限り。
ちなみに前者は「高野豆腐」,後者は「太陽」です (^^)